2013/12/12現在、私は若干修正した考えでいます。 食べすぎて問題になるのは油脂でなく炭水化物であり、 カロリー量は問題ではありません。
いいものを食えば、寿命が長くなると言う。 では、寿命とは何か。
統計的な意味での寿命には2種類ある。 平均寿命と最長寿命である。 平均寿命とは、ある集団が平均何歳で死ぬかという値で、 最長寿命とは、ある集団の中で一番長く生きたものが何歳で死んだかという値だ。 ここが重要なのだが、死因は問わない。
そういうわけで、平均寿命は毎年動く。 事実関西大震災の年には明らかに下がっていたわけで、 自殺、病気、怪我、老衰などいろいろな死に方が含まれる。 現在の日本人の平均寿命はだいたい80歳前後だが、 昔は50もなかった。今も世界の中の地域によっては40歳もないところがある。 しかし、これは断じて「だいたい40歳になると死ぬ」という意味ではない。 寿命といわれるとそういうイメージがあるが、 実は平均寿命における寿命という言葉はそういうイメージを無視したものなのである。 所詮平均だということだ。赤ん坊が多く死ねば、 それだけ激しく平均寿命は下がるのである。
一方、最長寿命はここ200年以上ほとんど変化していない。 だいたい120歳前後である。 江戸時代にも90歳の人はいたし、今も90歳の人はいる。 数は違うが、その程度の差である。 どこの地域にいっても、100歳を超える人というのは現れるものなのだ。 だから、最長寿命は種に固有な値であり、 遺伝子で決まっている値であると言ってもいい。
さて、今日の日本人の平均寿命は世界でも一番長い。 それは食生活の改善のせいだと言われてきたが、それだけと言えるだろうか。 考えてみれば、昔は余裕がなく食料の量が絶対的に不足していた。 それだけに餓死者もいた。 その上、医療が発達しておらず、病気は治らないものも多かった。 感染症にかかれば最後という状態だったのである。 また、乳幼児の死亡率はとんでもなく高かった。 七五三はそれぞれの年まで生き長らえたというお祝いだが、 昔はそれがお祝いになるくらい死にやすかったということである。 だから、今となっては七五三に意味はないと言っても良い。 現代はたいがいの病気に関して少なくとも延命が可能である。 そして、量的に食料が足りないことはなくなったため、 餓死者などまず出ない。 そういうことが重なって、平均寿命は飛躍的に伸びた。 医療の発達や食料の潤沢な供給は、 栄養の質など問題にならないほど平均寿命に寄与する。 昔は5歳までに相当な数の子供が死んでいたのだ。 それがほぼ0になっただけでどれほど平均寿命が上がることか。 最長寿命が変わらないのあたりまえで、 たまたま運良く栄養失調にならず、感染症にかからず、 優良な遺伝子をもっていた人間は、 今も昔も変わらずやはり90年生きたはずなのである。 江戸時代でも長老といわれる人の中には当然80オーバーの人もいたわけだ。 平均寿命が低い時代だからといって50で老人だ、と言うのは少し安易すぎる。 同様に、平均寿命が上がったのだから 昔の食い物より今の食い物の方が寿命をのばす、 というのは少し無理があるということがわかるだろう。 あくまで昔に欠けていたのは量であって質ではないのだ。
1950年と1990年の死因を見比べていくとこれがはっきりする (資料はそのへんによくころがってる)。 1950年には死因のトップは肺炎などの感染症だった。 また、乳幼児の死亡率も高い。これらは栄養とさほど関係しない、 いわばどうしようもなかった死に方である。 一方、現代の死因といえば、ガン、脳卒中、肝臓不全、心臓不全で、 たいがい油のとりすぎや塩のとりすぎなどの供給過多のダメージが 直接に結びつくものばかりである。 ガンはともかくとしても他のものは以前は ほとんど見られなかった死に方だ。 仮に1950年の状態で 乳幼児の死亡と感染症による死亡が0になったら、 おそらく今よりも平均寿命は高くなるだろう。 少なくとも老衰の率は今の日本より高くなる。 自然死の率が上がるというのは健全である証拠だから、 それはその方が健康的だということを意味するのである。 つまり、現代人の食い方というのは、 量はともかくとして質的に劣ると言って良い。
生物は欠乏に対しては防御機構を相当備えているが、 バランスが狂ったり、供給過多になったりすることにはほとんど耐性がない。 過去数百万年の歴史において、 栄養があまるような状態などほとんどなかったのである。 また、自然に転がっているものを食っている分には栄養が そう大きく偏ることなどあろうはずもなかった。 ここ数十年でそれが大きく変わってしまったのだが、そんなカスのような時間では、 遺伝子を適応させることなどできない。 そういうわけで、死なない程度に腹を空かせていた時代よりも、 腹一杯食いまくる時代の方が生体にはダメージが大きいのである。 たくさん食えば、たくさん燃やすわけで、 燃やす過程でヤバい酸素が出て細胞を破壊するし、 燃やすこともできないほど余ればどこかにためこむしかない。 そして当然ためこんだ場所には何かとダメージが出る。 さらに問題なのは特定の物質だけが過剰になることである。 全部過剰ならまだいいが、油やら塩やらだけが過剰になって、 それらをなんとかするのに必要なものをとらないままであれば、 余計にダメージは増える。ビタミンがないのにカロリーが増えれば、 当然処理しきれない酸素の量は増える。 油が過多になれば血液中にたまって血管をつまらせる。 成人病など本来生物にはありえない病気であると言って良い。 そして、成人病とは何かといえば、 環境要因によって加速された老化のことなのである。 肥満の人はそれだけ早く老化しているのだと思って良い。
そういうわけで、明らかに現代の食生活は生体の要求からずれている。 それで健康を保てるはずもない。医療の発達で死ぬ危険は減ったが、 それゆえに不健康に生きる期間は長くなりがちなのである。 本来人間はよほど致命的な遺伝子欠陥や、不慮の事故がない限り、 80から90の寿命は約束されている。 それを下げるのは環境要因で、 そのうちの感染症はほぼ除かれた。 残る最大の環境要因は栄養である。 これがまともであれば、誰でも90歳まで生きることはできるはずなのだ。 あなたが90まで生きたいと思うかどうかは知らないが、 少くとも死ぬ直前まで健康でいた方が何かとマシなのではないかと思う。