近頃ヒマなのかなんなのか、「健康」という言葉が異様にとりあげられている。 ここもその一つだ。少し異常とも思えるほどの執着を示す人達も多い。 日本人は豆腐をたべてるから健康なのに違いないとか言って、 豆腐にジャムをつけて食うアメリカ人もおかしいし (豆腐にジャムをつけるのがおかしいんではなく、 低カロリーという長所をジャムでつぶしているのがおかしいという意味だ)、 健康になるために出所のわからない怪しい薬やら 怪しい食い物を高い金を出して買うのも極端だ。 健康、ひいては生体についての知識がないのと、 不健康に対する恐怖が合わさった効果であろう。
そもそも健康というのは、今となってはあたりまえに手に入るべきものである。 感染症にもそうそうかからないし、 必要な栄養素を含んだ食い物はそのへんで普通に手に入る。 遺伝性の欠陥に関係ないところでは健康になってあたりまえである。 だから、健康になるためにあまり手間や金がかかるのなら、 その方法はおかしいと思って良い。
他のところでも書いたが、何もしないでそのまんま食うほど栄養は多い。 そして、昔からあたりまえだった食い物を食えば栄養は多い。 従って、味を度外視すれば、体に必要な食い物が高い物であるはずがないし、 料理にかかる手間もそうそう大きいはずがないのである。 もちろん極限まで金や手間を惜しもうとすれば パンの耳ばかり食ったり、コンビニ弁当に頼ったりと話は違ってくるのだが、 標準的な手間と金をかけていればあたりまえのように健康であるはずなのだ。
近頃、健康食品がはやりである。ビタミンの錠剤やら、タンパクのかたまりやら、 得体の知れない植物やら、なんだかわからない抽出物やらが、 メチャクチャな高値で売られている。 そんな企業が山ほどあるということは、 そんなものを買いまくっている人が大勢いるということである。 金で安心を買っていると割り切っている人はいいが、 それを買わなければ健康になれないと思っている人は ほとんどの場合何か間違っているはずだ。 ある程度の知識をもってビタミン錠を飲んでいるくらいならまだいいが、 それすらちゃんと効くということが保証されているわけではない。 複数の物質が複雑な相互作用をしているのが生体であり、 一つのものだけハデにとったところでちゃんと働くはどうかはわからないのである。 例えば、わさびの香り成分を抽出して菌にかけると活性酸素が どかどか出て菌が死にやすくなるということが知られている。 だったらわさびは毒だと言えるだろうか。実はそうではない。 わさびからその物質だけを抽出せず、 わさびをすりおろしたものそのまんまを菌にかけると、 全然菌は死なないのである。 複数の物質が互いに機能を抑えあったり強めたりといった相互作用をしている いい例だ。こういうわけで、 人類は生体に関してまだまだ浅はかな知識しか持っていないということを 知っておいてほしい。学者というのはけっこういいかげんな人種であり、 勝手なことを勝手に言う。そして、声が大きい学者の説ほど学会ではともかく、 一般には影響力を持つものだ。テレビやらで盛んに主張している学者が 果してまともなことを言っているかどうかは、 とても一般人には判断できないのである。
前述のように健康はあたりまえのものである。 本来普通であった食生活をしていて健康でなければ、 それは感染症、遺伝子、仕事の種類、ストレスなどなど が原因で健康を損なっているのであって、食い物のせいではない。 食い物のせいでないものは何を食っても改善されるわけがない。 栄養ドリンクが多種類売られているが、あれは一時的な効果しかない。 私も格闘技の試合の直前にああいうものを飲んだが、確かに試合中は効いて、 目が覚めたし体も動いた気がする。しかし、あとで異様に疲れた。 ああいうものはその場しのぎであって、 健康そのものにはさほどいい影響は与えないと思っていいだろう。 徹夜で漫画をかかねばならないような時には効果があるが、その程度のものである。
無知と恐怖が原因で盲目的に健康を追いもとめる人は 健康教信者だと言える。ちなみに、健康食品の類を押しつける人や、 健康を至上として人にそのための努力を強いる人は健康教の宣教師である。 私がもともと参考にした丸元淑生という人は相当その気があるし、 私にもそのケがある。宣教師にも程度があり、 私はまだマシな方だと自分では思っているが、 実際にどうかはわからないのである。 どうか、私にも気をつけてほしい。