2013/12/12現在、炭水化物を避ける食生活に移行したため、 肉の摂取量は極めて大きくなっています。 脂肪を害と考えることをやめたため、むしろ脂肪の多い肉を積極的に 選んでいる状況です。ここ2年の実践から、健康を害するのは むしろ炭水化物の方であると信じるようになりました。
「肉を食って精をつけろ」。この言葉はもう呪術的意味を除けば 全く意味のない言葉だ。その昔タンパク質と脂が非常に手に入りにくかった 時代には通用したが、この飽食の時代にあっては悪影響しか及ぼさない 迷信と言っていい。そのあたりについて科学の面から説明をしてみよう。
タンパク質は化学的にはアミノ酸という物質が鎖状に いくつもつながったものである。このアミノ酸には20種類あり、 この並びの違いがタンパク質の種類の違いとなっている。 タンパク質は人体においてとにかく重要な物質で、 筋肉の繊維もタンパク質なら、食べたものを消化する酵素もタンパク質で、 さらにはホルモンの一部や骨のかなりの部分もタンパク質である。 そういうものの維持には当然タンパク質が必要なわけだが、 ここで間違ってはならないのは、人はタンパク質をアミノ酸から いちいち合成しているのだということだ。 つまり食べたタンパク質をそのまま使うことはないのである。
食べたタンパク質はアミノ酸にバラされてから吸収され、 体中にいきわたる。そして、タンパク質が必要な時に そのアミノ酸を材料にして作るのである。 タンパク質によって使うアミノ酸は違うわけで、 人の使うアミノ酸の割合に近い割合でアミノ酸を 取ることが有効であることがわかるだろう。 たとえばアミノ酸Aとアミノ酸Bが1:1の比率でできているタンパク質を 作ろうとする時に、アミノ酸Aが5、アミノ酸Bが2だけあったとする。 そうするとBの量に合わせた量しか作れないわけで、 つまりAが3余る。余ったものは置いておけばいいが、 置いておく場所に困った時は排出しなければならない。 アミノ酸は分解するとアンモニアが出るので、これを尿素 に変換して出すわけだが、この負担が大きくなるわけだ。 つまり、余ったアミノ酸はゴミなのである。 これがバランスのとれたアミノ酸比率のタンパク質が良質と言われる 理由だ。
なぜ肉は良質タンパク源として君臨してきたのか。 それは、第一にはタンパク源があまりなかったころの名残であり、 もう一つは実際にそこそこ良質であるからである。 ヒトの必要アミノ酸分布に合った組成のタンパク質 を取るのがいいということは前にのべた。 ここで考えてみればわかることだが、 ヒトの体そのもののアミノ酸組成は当然その最適な組成である。 当たり前のことだ。つまり、ヒトと似たようなアミノ酸組成をしたもの、 つまりは哺乳動物の肉を食うのは至極まっとうなことなのである。 しかし、ここには落とし穴がある。人体は肉、つまりは筋肉だけ でできているわけではないということだ。 皮膚もあり、内臓もある。それらを無視して筋肉だけ食って 完璧なアミノ酸組成が得られるはずがない。 確かに良質で無駄は少ないが、完璧ではないということだけは知っておくべきだろう。 そしてなによりも現代人にとって重要なのは、 肉には脂が避けられずついてまわるということだ。 脂の項にも書いたが、現代は脂が余っている時代であり、 肉によって必要なアミノ酸を摂取しようとすれば必ず 脂をとりすぎてしまうのである。
必須アミノ酸とは、人体が自分で作ることができないアミノ酸のことである。 作ることができない以上食べるしかない。 人類は進化の過程で偶然いくつかのアミノ酸合成機構を失ってしまっており、 だいたい9個のアミノ酸が必須アミノ酸であると言われている。 ちなみに、大腸菌などはほとんどブドウ糖しか入っていないような環境でも ちゃんと20種類のアミノ酸を合成して生きてゆく。 人はその面で欠陥を負っている種なのだ。
ところで、こういうことから栄養学の人々の中では 必須アミノ酸だけが問題にされることが多いのだが、 いくら必須でないとは言え当然合成には手間がかかるし、 あるアミノ酸を作るために他のアミノ酸を材料にすることも多い。 そういうわけで、実は必須アミノ酸という概念にはそれほどの意味はないのである。 本当に自分で作れないアミノ酸は実はリジンとスレオニンだけであり、 他は実は合成ができないことはない。しかし、 リジンとスレオニンだけを摂取すればいいということには決してならないのだ。
タンパク質は生物にとって根源的な物質であり、 その欠乏はとにかく多種多様な災厄を招く。 成長時には当然成長が止まるし、 成人した後でも新陳代謝に支障が出る。 つまり体が維持できなくなる。 また、免疫の正体はタンパク質であるから 当然免疫機能が落ちる。生体にとって重要度の低い順に 切り離されていくから、免疫などは真っ先に切り捨てられるだろう。 もし免疫が弱ってきたらアミノ酸の欠乏も原因となり得るのだ。 また、活性酸素に対抗して老化を防ぐ役目を負ったタンパク質も多いから、 当然老化も早まる。これも生体の維持に関しては優先度が低いので、 かなり速い段階で切り捨られる可能性がある。 自覚症状がないうちにこういうところがダメージを受けている可能性は 大いにあるということだ。 また、タンパク質の材料としてでなく アミノ酸そのものから作られる物質もかなり重要であり、 到底ナメてかかれるものではない。たとえば、アルギニンが分解されて できる一酸化窒素は細胞間の情報伝達や免疫系で大きな役割を 果たしていると言われている。 そして同時に特定のアミノ酸だけが余るような状態も危険であることも 述べた。バランスの良い摂取に勝るものはないということである。
また、運動をする人にとっては格別の意味がある。 欠乏したアミノ酸は通常筋肉を分解することによって補充されるため、 ハードなトレーニングをしつつアミノ酸を十分にとらないと 筋肉が逆に萎縮してしまうことがあるのだ。だからと言って取りすぎても いいことはないのだが、少なくとも絶食状態での運動はできるだけ避けるべきだろう。
では、その必要量とはどの程度なのか。 ところが、これを定めるのは容易ではない。 今のところ一日に体重1kgあたり600mgから800mgの良質なタンパク質を 必要とするというデータが有力である。 体重60kgの人ならば40gから50gだ。 しかし、ここで問題になるのは何が良質なタンパク質なのか、であろう。
タンパク質の質とは、つまりアミノ酸の組成がヒトが必要とするそれに 近いかどうかである。しかし、これは状況によって大きく変わるし、 実際のところ完璧に必要なアミノ酸の比率を提供してくれる食べ物はない。 よく言われるように卵はかなり近い比率だが、 穀物もそう悪いものではないし、複数の食べ物を組み合わせれば 自然とバランスは良くなってくる。 たとえば、 伝統的な食事ではどこの文明でも穀物と豆を2:1で食べていることが知られている。 分析してみた結果、穀物に足りないリジンが豆で補われるなどして、 この比率がかなり理想の比に近いことが確かめられた。 これを第一の指標にするのが良いだろう。 豆を食べない場合はどうしても肉に頼ることになるが、 これが脂という悪を伴うのは前に述べた通りである。 魚であればいくらかこの害は軽減されるが、それでもカロリー をとりすぎることに変わりはない。
タンパク質はアミノ酸にバラされて吸収されるため、 別に加工の際にバラけたところで何ら問題はない。 うま味とはアミノ酸の味なわけで、死んでから時間がたって熟成させた方が おいしいというのも、つまりはタンパク質が分解してアミノ酸ができるからである。 醤油やカツオブシはその代表例だろう。 しかし、だからといって加工に関して何も気を使わなくていいかと言うと そうは行かないのだ。
といっても気をつけるべきことは加熱だけである。 加熱によってタンパク質は凝固する。 肉は焼けば固くなる。卵もゆでれば固くなる。 固くなったタンパク質は当然固いだけに分解しにくい。 つまり吸収効率が落ちるのだ。 かたゆでたまごも、ウェルダンのステーキも、栄養学的には まことにもったいない料理であると言えよう。 これが肉の時にはかなり深刻で、タンパク質の吸収は落ちても 脂肪の吸収は落ちない。つまり、ただでもジャマな脂が多いのに、 さらに余計にたくさんとらなければタンパク源として役に立たなくなるのである。 肉は消毒に必要な最小限以上の熱を加えないようにすべきだろう。
なお、卵の場合は事情が多少複雑である。 白身にはビオチンという栄養の吸収をジャマする物質が入っており、 生で頻繁に食うとビオチンが欠乏しがちになる。 しかしその物質は60度以上になればそのジャマな性質を失うので、 白身だけは加熱した方がいい。加えてサルモネラ菌の殺菌も考えると、 だいたい70度くらいに加熱した方がいいことになる。 この温度だと白身は固くなりつつも黄身は生だ。 一度沸騰した湯に 卵を割って落として火を止め、3分ほど置くとこういう状態になる。 落とし卵という料理法で、最も確実に効率良く卵の栄養を摂取する方法である。
うま味とはアミノ酸の味である。いろいろあるが、日本人が一番慣れ親しんている のはグルタミン酸の味だろう。そこで開発されたのがグルタミン酸ナトリウム の結晶たる味の素である。別にグルタミン酸そのものは20種のアミノ酸の一つで 何も悪いことはない。しかし、問題は一緒にいるナトリウムと、 そしてグルタミン酸だけが突出して摂取されることの害だ。
ナトリウムは現代人にとってはもはや栄養素ではない。 放っておいてもとりすぎてしまうくらいそこら中にあふれているからだ。 塩だけでも十分すぎるのに、そこに加えて味の素という形でまで ナトリウムをとるのはあまりに危険であろう。 また、グルタミン酸だけをそんなに大量で、増してグラム単位で取っても 余るに決まっている。一日100グラムのタンパクが必要とすれば、 単純に20で割ってもグルタミン酸の必要量は5グラム程度である。 今の人は肉を食べすぎているわけで一日100グラムどころの摂取量ではないことが多い。 となればグルタミン酸は明らかに足りているわけで これ以上とるのは無駄でしかないのである。
ちなみに、多くのラーメン屋では相当な量の 味の素が入れられている。私の経験では、ほとんど味の素の味がしないような 店でも小さじ一杯分ほど入れていた。あそこであれならばあからさまに舌 が痺れるようなラーメン屋ではおそらくその3倍や5倍は入っているだろう。 10グラム近い量が入っていることすら十分に考えられる。 ラーメン屋に行く時には少々注意してみるとおもしろいのではないだろうか。
運動している人はたくさんタンパク質を必要とするというのは 半ば常識である。しかし、本当にそうだろうか。 数多くの学者が実際の運動選手の協力を得て実験を行なったが、 実はまだ結着がついていない。 しかし、結着がついていないということは、 タンパク質を多く取った時も多く取らなかった時も 大して差がないということである。 推奨される一日あたりのタンパク摂取量は 体重1kgあたり多くても1.5g前後で、つまり60kgの人で一日に100g程度ということだ。 しかし、この倍の量を摂取した場合もほとんどの実験では顕著な差は見られていない。 つまりトレーニング中だからといってタンパク質を多くとるのは 「全く」意味がないとは言わないが、少なくとも「大して」意味はないのである。
あともう一つ運動とアミノ酸の関連として、 運動中に補充することの効果がある。 水泳選手での実験に運動の合間に糖やミネラルに合わせて アミノ酸を補充すると疲労が軽減されるという現象が見られている。 これは確定した説ではないが、なかなか有力だ。 ちなみにエネルゲンのようなスポーツドリンクには これを気にしてかアルギニンのようなアミノ酸がかなりの量含まれている。
さらに、運動と免疫の関係がある。 少々の運動は免疫機能を高めるが、 激しい運動は一般に免疫機能を落とす。 これは筋肉にアミノ酸が奪われて免疫にまわらないためだと言われており、 適切なアミノ酸の補充がこの効果を柔らげるのではないかと言われているが、 これに関してはまだそれほど明らかにはなっていない。
なお、プロテインと言われる濃縮アミノ酸食品があるが、 その手のものの効用は科学的にはまったく認められていない。 タンパク質だけを、それも分解されたアミノ酸の形で取るのは かえって消化効率が落ちるという研究もある。 過剰のアミノ酸濃度によって水分の吸収が狂い、下痢などの症状を 起こすこともあるため、そういった不自然なものに頼る利点は少なくとも 物理的にはないと言って良い。
普通に食べれば良い。運動していようとしていまいと、 体が必要とするアミノ酸はそれほど劇的に変化するわけではないのである。 成長期であればまだしも、成人した後の筋肉づくりに関しては あまり極端なタンパク質の摂取はかえって害であろう。 せいぜい体重×1.5グラム程度を目安に 良質のタンパク質をとることを心がければそれで良い。
また、タンパク質の質に関しても肉が優れているという神話は捨てるべきだ。 穀物と豆のバランスがこれに関しては最も重要であり、 まずこれをどうにか保つことを考えるべきだろう。 豆の形で食べにくければ豆腐でもいいし、 カツオブシのように脂がかなりの部分分解されて アミノ酸のかたまりのようになったものからの摂取も効果的だ。 加えてカツオブシのようなダシ物はすでにかなりの部分がタンパク質から アミノ酸に分解を起こしているので、味は濃いし 吸収率も良い。また、卵や肉に関しては加熱のしすぎは避けるべきであろう。