「デアボリカ」感想

私の中でも評価がもろもろ分かれているちょっとむつかしい作品です。 アリスソフトっぽいダメなところももろもろあるのですが、 アリスソフトならではの勢いのためにやはり質の高いものになっています。 とにかくこの作品のミソはシナリオのパワーで、 その意味ではアトラクナクアと似ているかもしれません。

ストーリー

人間などはるかに及ばない力を持つ生き物であるデアボリカ。 それが不死の生物であることが話のミソです。 デアボリカである主人公は人間に恋しますが、人間は死ぬべき存在であり、 主人公はその転生をながい時の中まちつづけなければならないわけです。

構成は5部構成で4回死に別れるわけですから、その意味では「久遠の絆」 以上にしつこいのですが、それぞれがそれほど長くないうえに、 キャラクターがうまく設定されているのでそう苦になりません。 しかも、ちゃんと大きな流れのストーリーがあってただダラダラと 死に別れパターンをくりかえすわけではないところがいいでしょう。 しかも、毎回バリエーションに富んでいるのでそれほど飽きてはきません。

もちろん、欠点ははいてすてるほどあります。 まず、分量の配分がなっていません。 根幹に関わる部分はもっと丁寧に書くべきですし、 雰囲気のために挿入された話はもっと短くできるはずなのです。 そうしないと、どこが中心なのかがボケてしまいます。 たとえばもっとアリアを丁寧に書いていれば、 もっと深みのある三角関係にできたでしょうし、ライバルの火炎王との関係は もっと丁寧に書かれていれば多分一番かっこいいキャラになっていたでしょう。 逆に第五部の始めあたりの平和な話や、第三部などは あれほど長い必要はなかったのではないでしょうか。

それと、ストーリーのクライマックスあたりも「消える」という抽象的な できごとをうまく説明しきれていないため、感動がいまひとつになってしまいます。 設定上、「死」ではなく「消滅」であるのは仕方ないとしても、 その「消滅」が重い意味をもつのか軽い意味をもつのかが読者にはわからないのです。 とりあえずシーンとしては「死ぬ」シーンと同じような書かれかたをしているので ヤマ場なのはわかるのですが、そこで「消える」という言葉が説明不足なために 頭にひっかかり素直に感動できません。実際後からあっさりとまた出てくるので 大したことではなかったわけですが、 それではせっかくのヤマ場が死んでしまうではありませんか。

あとはストーリーに理不尽、あるいは説明不足なところが多すぎます。 第一部と第五部は数百年の時を経ているにもかかわらず、 ヒロインは同じ名前で同じ顔です。最後に愛が成就する以上これは必然では ありますが、何の説明もなくやってしまうのはマズいでしょう。 しかも、主人公が町の男の子に化けているあたりについても説明がありません。 それに、デアボリカ達は数百年の時を変わらずすごしているわけなのですが、 それを感じさせる行動やセリフがなかったのが残念です。 章が変われば何十年かたっているわけで、ヒロインは転生してくるし、 世界は変わっています。しかし、デアボリカ達は何にも変わっていません。 これは設定上当然ですが、 何百年かを経過して変わらないその様を実感できるような、 なにかが滞っていることを感じさせる描写が欲しかった気がします。 どうも何千年も生きているキャラであるということが実感できないのです。 もっとも、これってとんでもなく高度な要求なんですが、 それを求めるくらい気にいったということでもあります。

世界設定

節操のない世界です。 こまかいことを言えばキリがありませんが、 ネイティブアメリカン風の村から、一般的ファンタジー世界、 中国っぽいのから日本っぽいのまでなんでもござれです。 いわゆる同人っぽい感じがそこかしこからはみだしています。 このへんは「ああ、アリス」という感じで私は好きにはなれません。 デアボリカの名前も「ファトラ」なんてのはあるかと思うと「彭祖」なんてのが でてきますし、デアボリカの下僕の生き物は「凶(マガキ)」なんていう名前です。 もうなにがなんだかわかりません。どこをみてもなんだかわからない漢字 でできた名詞がゴロゴロしていて、鼻について仕方ないのです。 しかし、これも勢いのあらわれだと思えば、我慢できないほどでもありません。 それに節操がないことを別にすれば結構がんばって作っている ようにも思えます。

節操がないのはともかくとしても、いいかげんなのはどうなんでしょうか。 鉄砲もない世界なのに、平気で家の中でコンロを使って料理しますし、 遊園地は移動してきますし、アイスクリームは売っています。 そのへんは確かに本筋から見ればどうでもいいのですが、 雰囲気や世界をたたきこわすようなものはやはり除いた方がいいでしょう。

文章

がんばってます。とにかく凝った表現をいろいろいれようとしてがんばってます。 しかし、残念ながらあまりうまいとはいえません。 変な漢字をいれたがるところも、何かハッタリをかまそうとして失敗している 印象を与えます。

しかし、不快なほど下手なわけでもありません。 興覚めな擬音がバシバシ入るようなこともありませんし、 台詞はよく練っています。キャラの魅力を損うことはないので、 必要十分とも言えるでしょう。普通の会話であまり凝ったことをしていないのが 正解だったのだと思います。ただ、やはり戦闘などの描写の面でいまひとつ状況が 浮かんできにくいかもしれません。 そのあたりはどうしてもアトラクナクアと比べてしまいます。

ちなみに、アリスの常なのか文章はおせじにもお上品とは言えません。 こんなシリアス系の作品でもこうなのですから、普通のはさぞひどいのでしょう。 下品な軽口に耐えられない人は辛いのではないでしょうか。

演出

ここで特に話題にしたいのは、クライマックス付近のHシーンです。 出崎ばりの画面分割で、 それぞれがスクロールしたりしながら状況が描写されていきます。 この間、文章は一切でません。なんともかっこよかったシーンです。 また、章がはじまるときの題名もまたハッタリがきいていてよろしいです。

登場人物

あえていいましょう。みな陳腐です。しかし、よくできています。 みんなそれなりにいい奴で、感情もよくあらわれていますし、 不自然な行動もあまりありません。 しかしながら残念なのはアリアと火炎王がパっとしなかった ことでしょう。こいつらの描写がもうすし丁寧だったなら、 両方とも爆弾キャラになっていた可能性があります。 いいストーリーは立ったキャラに語られてはじめていいストーリーになります。 その意味においてもっとキャラが立っていたならばこの作品は名作の一歩手前くらい まではいけたかもしれないのです。

ルール

いわゆるむかしのアドベンチャーゲーム方式で、 いつも「考える」とか「話す」とかいうのが用意されてるあれです。 残念ながら、このルールを採用したことによってなんの 利益ももたらされませんでした。 おとなしくアトラクナクアのように小説にしてしまうべきだったのです。 戦闘の選択肢もあってもじゃまなだけなものですし、 フラグをたててまわるのは非常に苦痛です。 おそらくスタッフのゲーム観の古さが原因であると思われます。 アリスは他のゲームもこういった点がみられるからです。

なお、速度的な不満はありませんし、CGモードも全画面表示CGだけでなく、 顔CGやスプライトCGも観賞できるのがマルです。

ちょっと少女漫画っぽい絵がメインです。 塗りもアニメ塗りでなく、ちょっと新鮮な感じがします。 アリスのゲームはいつもこうなのですが、 微妙に生身の絵っぽい雰囲気がいい感じです。 ただ、やはりアリスの常として原画がひとりではないので、 すこし浮いた絵がちらほらありますが、今回はどういうわけかさほど気になりません。 塗り方がある程度統一されているのが大きいのかもしれません。

なお、世界設定のところに描いた通り、 着ている服やらなにやらは節操なくバラバラです。 しかしながら、それとして見てみればかっこよかったり、かわいかったりするので 問題ではないのかもしれません。

曲は旋律が主な曲が少く、電子ギター系の音や、なんだかわからない音のする いかにもBGMな曲が多いようです。雰囲気はでていますが、 頭の中にこびりつくというわけではないので 私としてはものたりません。 ただ、どちらがゲーム音楽としてふさわしいかは人の好みが影響しますので、 なんともいえないでしょう。

なお、例によって効果音は普通です。 やはりそこまで求めるのは無理なのかもしれません。

ちなみに、オープニングの火炎王の声はあんまりです。 私は最初あれを飛ばしてしまい、終わった後で聞いたので ダメージは少なくてすみましたが、もし最初にあんなのを聞いていたらと思うと ゾっとします。私内部では火炎王の声は 大塚明夫なのです。もしあんな声に固定されたら 火炎王のキャラは粉微塵にされてしまいます。 あれはどういう意図なのでしょう。どう考えても素人なんですけど。 スタッフロールに名前でてるし。

全体として

私としてはそこそこ評価は高いです。 ストーリーもこういう凝りすぎたものには珍しく、 ちゃんと結着がついていますし、キャラもいいできです。 そして、勢いがあります。 それだけにいろいろ惜しいところはありますが、 それはまた後の作品に期待しましょう。


出崎 統

コブラ、あしたのジョー、エースをねらえ、ベルサイユのばら、 Blackjack等のアニメの監督さん。 この人の演出技法はあまりに特徴的で、見た瞬間に「う、出崎」と叫ぶほど である。画面分割、劇画止め3連発、入射光の効果などがその代表的な技だ。

あしたのジョーをおもいうかべてほしい。 クロスカウンターが入った瞬間に絵がセル画から 劇画調の止め絵になり、それが左右にスクロールするのが3回くりかえされる。 もちろん3回目は一番ゆっくりだ。わかっただろう。あれが出崎だ。 私が好きなアニメ監督の中でもほぼトップである。 今となってはもう古くさい演出なのだが、それでもかっこいいことにかわりはない。 そもそもあれだけの技法を開発したということはすごいことなのだ。

「エースをねらえ」など元が少女漫画だということが微塵も感じさせないような熱い 作品に仕上がっている。あのテニス描写は一見の価値ありだ。 是非とも再放送を見ていただきたい。 ベルサイユのばらも原作は大したこともないのに、 アニメ化されたおかげでメジャーになった。 まさにアニメ界の巨人というにふさわしい。


大塚明夫
かっこいいおじさんの声をよくやる声優さん。 Blackjackの「間黒夫(ブラックジャック)」や白鯨伝説の「エイハブ」 なんかが新しいところ。「シブい」という言葉がこれほどはまる声 もそうそうない。「色気」のある声というのはいいものだ。

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