そもそもこのタイトルを聞いてどんな話を思いうかべるでしょうか。 普通は死ぬ直前に書いた作品という意味にしかとりません。 しかし、ド肝をぬくことにこれはキャラの名前なのです。 伊頭遺作。これが影の主人公であり悪役であり、 ストーリーの根幹をなすキャラなのです。 そんな段階でもうすごさを感じられます。 では、内容についてこれから書くことにしましょう。
ある日、主人公のもとにワープロ打ちの奇妙なラブレターがとどきます。 そこにかかれた通り廃棄寸前の旧校舎へいくのですが、 おなじように何人かが呼びだされており、それがいたずらであることを知ります。 そして遺作の手によって彼等は旧校舎に閉じこめられてしまうのです。 女の子を遺作の魔の手から守りつつ、そこから脱出するのが筋になります。
さて、これの秀逸なところは、それにいろいろな設定をつけ、 かつ遺作がただの変質者ではないところです。 学園の汚れた裏の事情や、過去におこった殺人事件などの設定をうまく使って、 この事件に深みをもたせています。それぞれのキャラも一見バラバラなようで 遺作とちゃんとつながりがあるというのもすごいところで、 偶然と必然の使い分けのうまさは相当なものです。 ちゃんとした物書きとしてもある程度は通用するレベルなのではないでしょうか。
十分うまいと思います。特に閉じこめられて遺作の影におびえるキャラの 心理の描写については申し分ありません。主人公もふくめて 登場人物の心に余裕がなくなり、だんだんとおかしくなってくる様が 見事に描写されています。地の分は主人公の一人称であるため、 テキストはすべてせりふ調なわけですが、 それでも状況説明がいいかげんになることはありませんし、 単なる状況説明にもちゃんと心情を反映させた書き方をしているあたりが 評価できます。凝った表現などはまったくなく、単なる文章として評価すれば 大したことはないのでしょうが、ただの文章でないゲームというものの 要素としてジャマにならず役割を果しているのはいいことです。
これはギャルゲーというよりエロゲーですから キャラクターはさほど重要ではありません。 推理ゲームにエロをつけただけの形式である以上、 そうキャラが立っている必要もないからです。 しかし、これに出てくるキャラクターは十分に立っています。 設定だけ見れば、美人女教師、無垢な美少女、影のある美少女、 ロリメガネ、男まさり、ちょっと大人っぽいテニス少女、とありがちの極致です。 しかし、それでも心理描写が無理なく丁寧になされると異様なまでの 実在感が出てきます。その意味で「立って」いるのです。 男キャラもちょっと弱気で盗聴とかのヤバめの趣味をもつ親友、 理事長の息子の高飛車な奴、推理小説好きのクールな主人公、 そして頭は異常に切れるけれども被害妄想もちで変態趣味の伊頭遺作。 特に遺作はものすごいキャラクターで、 とてもじゃないけどこんなキャラは書けません。 ただ異常なことを強調するのではなく、どういったプロセスで考えて異常な行動を しているのかが丁寧にかかれているために余計に実在感が出て、 イヤさがきわだっています。 これはエロゲーとしての商品価値を維持しつつもそれだけに終わらない 作品であることを支える大切な要素といえるでしょう。
なお、ヒロインは2人いて、片方は無垢であんまりなにも考えていない美少女。 これは主人公が最初から片想いという設定です。 そしてもうひとりはストーリーに深くかかわる一見冷たい美少女。 主人公はかなり最初は反感をもっています。 メインは後者の方です。あきらかにそちらの方がストーリーに 深くかかわっていますし、キャラの描写もけた違いに丁寧です。 くらべて「無垢な美少女」の方はあまりにも描写が少なく、 キャラにも魅力がありません。 もちろん魅力がないというのは「好きになりにくい」という意味で、 ちゃんと実在感のある描写をしているのは事実ですが、 もうひとりと比べた時にあまりにも何も考えていないことが目につき、 興味が薄れていくのです。「この非常時になに言ってやがる」という いらだちが主人公の心にわきおこってくるのです。 おそらく、わざと魅力なく書くことで、 メインヒロインをより立たせようということなのだと思います。 この時おそらくプレイヤーの彼女に大する興味と主人公の彼女に対する興味が 同期してさめていくことを狙っているのではないでしょうか。 そうなれば主人公への感情移入もより大きくなるでしょう。 そして、その分だけメインヒロインの魅力が大きくなるのです。 まったくよく考えて作っていると言えるでしょう。 普通の恋愛ゲームと違って、「だれだれと結ばれて終わり」ではない 謎解きゲームにこれだけの恋愛ドラマをもたせるというのは なかなかすごいものではないでしょうか。
「考えて解く」といううたい文句そのままに、 いろいろな所を調べてどこをどうすれば先へ進めるかを考えるというのが基本です。 マウスで調べたい所をクリックするとそれで文章が出て、 アイテムを使う時にもアイテムをえらんで使いたい場所でクリックするという メジャーなシステムです。 しかし、これがまたよくできています。 とても役には立ちそうもないアイテムがとんでもないところで役に立ったりして、 なかなか驚かせてくれます。
なお、どうやってエロシーンが入るかというと、 何らかの失敗すると女の子が遺作に捕えられてそういうことになってしまう、 という形式をとります。 さらにそれは遺作がビデオにとって、どこかに置くという形式をとるため、 どこにビデオがおかれるかも結構探さねばなりません。 なお、そういう形式であるため まともにクリアできれば一切エロシーンは出ません。 エロシーンをみたければわざと遺作に拉致させるという作業が必要になります。 そのためにはどういった行動が失敗につながるのかを把握することが必要で、 無用にそんなものをさがすのに燃えたりします。ちょっとした行動の順番なんかで けっこう簡単に拉致されてしまうので、なかなか攻略もむつかしいでしょう。 特に最後の決戦に必要なアイテムなどは相当意表をついていますので、 わかった時の快感は相当なものがありました。 とにかくゲーム的にも申しぶんないおもしろさです。 一回徹夜すればおわる程度の規模ですが、 それがまた絶妙でいいのではないかと思います。
16色なので、色塗りに期待はできません。 しかしエルフだけに16色の中で見れば相当なレベルです。 そのへんで不満はないと思います。 また原画もあまり特徴のない普通の絵ではありますが、 下手ではありませんしむしろちゃんとうまい絵です。 そして、なによりも遺作の顔がとんでもなくいい味を出しています。 これだけイヤな顔であれば申し分なく遺作の顔として認識できるでしょう。 総合して絵に不満はありませんし、むしろいい出来だと思います。
FM音源なので音質は悲惨ですが、 曲そのものはとてもイヤでよく雰囲気をかもしだしています。 雰囲気に合った、というか雰囲気を作る一因になっているような作曲であれば それがいかに陳腐であっても出来はいいと言うべきでしょう。 ドアの効果音などもイヤな感じをよく増幅してくれますし、 音に関してまったく不満はありません。
おもしろいゲームでした。 すぐに終わってしまう殺那的なゲームではありますが、 遺作やヒロインの印象は結構のこります。 また、展開の意外さなどもなかなか秀逸で飽きさせないつくりでした。 ただ難をいうとするならば、おもしろいけれども、ものすごくおもしろくはないし、 魂を持っていかれたり、床をころがったりするような目にあうほどのゲームではない ということくらいでしょうが、そんなゲームばかりでも問題なので、 これはこれでいいのです。 普通におもしろいので、私も自信をもってすすめられます。