今までやった文章系ゲームのうちで最も暗い気分にさせられたゲームです。 とにかくやってみればわかりますが、 「つまらない」以外の理由でこれほど沈んだ気分に させてくれるものもないでしょう。 その意味で、私内部では相当上位にランクされています。
母の死の原因と思われる宗教団体の隔離施設に潜入し、 その組織の秘密を暴こうとする話です。 宗教ネタというものはそうめずらしくもなく、 隔離された異常な空間というのはエロゲーの舞台としては ありふれているように思えます。 しかし、これの恐しい所はそれをエロの理由としてだけでじゃなく、 キャラクターの人間性を描くための道具にしていることです。 怪しい装置を使って、 それぞれのキャラクターの過去が醜く描き出され、 それまでそれから逃げていきたキャラクター達はそれをもう一度 受けいれて、それらを克服しようとしていかざるを得なくなるのです。
ただし、ストーリーの大筋だけ言えば陳腐です。 最後の結着のあたりはすこし ヒロイックにすぎますし、 明かされる裏設定のおそまつさは私でもけなさざるを得ません。 クライマックスあたりのシーンの流れはムチャですし、 いりもしない小道具を入れすぎて主題をあいまいにしてしまっているのは 惜しいものです。もともと宗教組織という非日常をネタにしているところで、 異種族や超能力といったあからさまな非日常を入れるのは あまり歓迎できないムチャさではないでしょうか。 そもそも「何がどうなったのか」すらわかりにくく、 ストーリーの結びがいまひとつなことも印象の悪化に一役買っています。 ストーリーの構成をとってみても優れているとは言えませんし、 キャラクタの設定をとってみても見るべき点はありません。 世界観の表現に必要なものが欠けており、宗教という非日常を納得させるだけの道具が ありませんし、主人公の成長過程での歪みを表現するにも丁寧さがなく唐突に イヤな奴になってしまった感があります。 なんにせよ、この作品の価値は ストーリーそのものにはありません。 個々のシーンと、それによって動く人物の心情、そして結局は表現のうまさでしょう。
この手のものとしては相当なレベルです。 短い言葉で強い印象を与えるその手法は、 くどい描写で無理な感動をうながすようなものとは一線を 画します。極限まで削りこまれた言葉が光るのです。 しかし、場面によっては興覚めな擬音が連発したりして シーンによってレベルに大きな差があります。 これはおそらく脚本が2人いることが影響しているのではないでしょうか。
また、匂いの描写を強力な武器にしている所も特筆すべき 点でしょう。 私は未だかつてこれほど「臭い」文章を読んだことがありません。 文字通り「匂いが臭い」のです。「うんち」でも「クソ」でも なく、「糞」や「便」という言葉がふさわしい、 そんな印象を受ける場面が非常に多くあります。 とにかく、人間も動物として体の匂いというものから 自由にはなれないということが実感できる文章です。 とにかく「イヤがらせる」ことに相当の情熱を注いでいます。
人物の語り口調も非常に独特なものがあります。 特にそれが現れるのはキャラクターがひどい目に合う シーンであり、ただでも悲惨なシーンがさらに嫌悪感をもよおす 強烈に嫌なシーンになっています。 基本的にそれはHシーンなわけですが、 もうやめてくれと念じながらボタンを押しつづけることに なるでしょう。 もはやあのHシーンは読者への仕打ちであるとすら言えます。
クライマックス付近の狂気の描写もみどころのひとつです。 正気から狂気への移行がなめらかで、 ふと気づくと支離滅裂な文章になっています。 ただ意味のない言葉をつないだだけといわれればそうなのかもしれませんが、 雰囲気を表現する手段としてはなかなかのものに思えます。
ちなみに、最初はできる限りCGを出さないようにして エンディングを向かえた方がいいでしょう。 というのも、クリアすると出るCG観賞室では 見ていないCGについてヒントをくれるのですが、 そのヒントがやけに面白いのです。 CGなどよりもよっぽど価値があるので、 一度読まれることをおすすめします。
ギャルゲー的な魅力は全くありません。 設定だけ見れば一応ギャルゲ系のキャラというのもいるにはいるのですが、 それもこの雰囲気にのまれてしまっています。 設定をみてもありきたりに不幸な過去で、そう大したものでもありません。 しかも、主人公の「淫乱」という設定はエロゲを意識した結果つくられた ことは間違いなく、それがまたムチャすぎます。 もっと、親の愛情が足りなかったことがどのように人格形成に影響を与えていくかの 過程が描かれていればその違和感もなかったでしょう。 しかし、そういったことはひとまずおくとしてこの作品のキャラクターの特徴を あげるとすれば、その「生身」さがあります。 何かを「自覚」することは重要ではありますが、 同時にいやらしい行為でもあります。 そのいやらしい計算高さ を普通の人間はもっているものなのです。 そしてこのキャラクター達は普通の人間と同じに さまざまなことを自覚し、そのために 悩み、痛みを負っていくのです。 その点において、彼女達はペット的なものが要求されるギャルゲのキャラ としては異質です。 エロゲであることにはキャラクタの人間性は影響しませんから、 エロゲーでないということはありませんが、ギャルゲーとしては何か違う気がします。
また、主人公達をいじめる(などという次元ではないのだが) 悪役も非常に「立った」キャラクターです。 存在自体はストーリーの都合上つくられた悪役であるのは間違いありませんが、 サドではあるものの狂ってはいない程度の人間が、 まるでわざとおかしいようにふるまっているような ちょっとひねった印象を受け、 余計な嫌悪感をもよおすものになっていました。 あまり感情移入しないように読んでいれば笑えてしまうくらい バカな口調なのですが、私のようにはまりこんで読んでいると、 本当に気が滅入ります。なぜゲームでこれほど嫌な気分にならねば ならぬのかと思うほどです。
しかし、比較的まだ深刻でない場面ではキャラクターのかけあいが楽しげで、 後の「ONE」を予感させるものがあります。
マップ移動と選択肢がついた小説です。 Renewalではほとんど ONEと同じものになっています。元のMOON.はまったく違った操作系、 画面構成でしたが、あまりにも不完全だったため改良されて renewalとなったわけです。 その結果非常に快適になり、速度も何の不満もありません。 この形式のゲームですから特に凝る必要もないでしょう。 ただ、相変わらず文章を さかのぼれないのはどうかとは思いますが。 たいがいの選択肢はダミーというのも好感がもてますし、 攻略に失敗した時にはヒントが出るので、 攻略がむつかしいということもありません。
レベルが低いです。 原画にまず問題があるので、こればかりは目をつむるしかないでしょう。 色塗りもやはり最低レベルな印象を受けます。
ただし、単色の写真を加工した背景はとても雰囲気がよく、 作品に合っています。下手に描かれるよりは演出の道具として良かったでしょう。
私の内部ゲーム音楽ランキングで3位以内に入っています。 特に作品の雰囲気と合っているということに関しては これほどのものは知りません。 とにかく重い気分をさらに重くしてくれます。 曲自体の印象も強く、曲を聞けばイヤなシーンを 思いだすように改造されてしまいます。 しかし、決して気もちのいいシーンを連想すること はないでしょう。 明るめの曲ほど印象が薄いからです。
キワモノなことはわかっていただけたと思います。 さらに「出来がいいか」と問われれば、「悪い」としかいえないあたりも またキワモノさを際だたせています。 しかしそれでも 私は自信を持って「おもしろかった」と言えます。 なぜなら、エロゲの枠の中でいかにエロゲを逸脱するほどに人間を描くかを 追及した心意気が感じられるからです。