女神転生といえば、どこで切ってもマニアと書いた断面図しかかけないという 異端なシリーズです。最近はぬるくなったとは言え、 異様なまでのこだわりがストーリーやキャラクタ設定に反映されています。
前作もまたその名に恥じない変なゲームでしたが、 今度は果たしてどうでしょうか。
「噂が現実になる」というのがこのストーリーのきっかけであり全てです。 理想を実現してくれるジョーカー様の噂が現実になり、 その現実がさらに大きな噂を作る。そしてその噂はまた現実になる。 それが繰り返されてどんどん狂ってうゆく世界の中で それぞれ傷や辛い過去をもつキャラクター達がその状況と戦ってゆくのが ストーリーの根幹になります。
最初は少しおかしいくらいの学園物だったのに、 いつしか謎の組織が現れ、 街は爆破され、 ラーメン屋では武器を売り、 悪魔は跳梁跋扈し、 ついにはナチスの残党が秘宝を狙って襲ってきます。 全てが少しづつ、少しづつ狂ってゆくのです。 そして、それが全て噂が現実になるという一つの現象から自然に起こってくる のがすごいところでしょう。
また、こういった荒唐無稽さとは別に、 キャラクターの過去に関わる話の出来もよく、 ストーリーの迫力を増しています。 それぞれのキャラクターの過去は事件に深くかかわっており、 事件の進展とともに彼等の過去も明らかになってゆくので、 よりストーリーへ入りこめるようになっているのです。
そういうわけで、ストーリーに関しては好みの問題を除けば欠点らしい 欠点はみあたりません。エヴァンゲリオンの影響を受けすぎていて、 キャラがやけに雄弁だったり、意味深なセリフが多かったりはしますが、 キャラも雰囲気も独特で、パクリという印象はほとんど受けません。 雄弁なのがうっとうしいと感じる人もいるかもしれませんが、 いつも雄弁で意味深なのではなく、軽い台詞の中にそういうものがちりばめられている といった感じなので、さほど説教くさい印象を受けることはないでしょう。 ただ、そのバランスだけを言うなら前作やデビルサマナーシリーズの方が 優れていると言えるかもしれません。 それらに比べると、やはり雄弁すぎる印象が拭えないのも事実だからです。
このゲームは設定が異様に凝っています。 それこそ異様です。ラーメン屋のおばさんから、洋服屋の店員、 学校の校章に制服にジャージに至るまで、 並のものとは比べものにならないほどの設定があります。 そしてそれが異様に魅力的なのです。 それは設定が、設定に終わらずにちゃんと世界を支える要素になっているからです。 人間に関しては、店の人の口調からそのへんの人のメッセージまで ちゃんと生きている人間のものですし、 世界がおかしくなって出てくるトンデモ本的な設定も、 ちゃんとその筋の知識をもとに作られた一種正しい設定になっています。 設定資料だけみていても十分楽しめるほどではないでしょうか。 ただデータ量が多いだけの設定ではこうはいきません。
異様に立っている上にやけに魅力的です。 キャラが立っているというのは、キャラが特徴的だということだけを意味しません。 キャラクターというものはその世界において実在している人間です。 つまり、その世界で不可能な行動やキャラの性格と矛盾する行動はとれません。 ですから、あまりに奇をてらった設定は全てを破壊しかねません。 しかし、この作品では特徴的でありながら行動と性格が一致できる範囲に の設定にし、そしてちゃんと人間を描いています。 ビジュアル系の番長やら 日本語しかしゃべれない金髪娘などでも 彼等はちゃんとその性格にもとづいてしゃべり、行動します。 だから実在感があるのです。 そして、さらに性格に根拠を与える設定が存在しています。 どうしてそういう性格なのか、ということが説明されるキャラクターは なかなか見られないでしょう。 エヴァンゲリオンの影響かもしれませんが、 だとしたらいい方向に影響を受けたのだと言うことができます。 そしてなによりも、主役級の6人はみんないい人です。 友達だったらこんなに楽しいことはないでしょう。 本当に友達になっても安心できそうな感じがするのは、 いい面だけでなく醜い面もちゃんと描かれているからではないでしょうか。 このゲーム以上にそういう感想を抱いたゲームは今だかつてありません。
そして、脇役も魅力的です。ラーメン屋のおばちゃんから、 街の人、悪役から、寺の住職に至るまで、ありとあらゆる人が 実在感があってキャラクターとして魅力的です。 作者らは「キャラゲー」であると定義づけているようですが、 その言葉に恥じない出来だと言えます。
さらに、女神転生として当然のことですが悪魔もキャラが立っています。 悪魔というのはドラクエでいうモンスターですが、 このシリーズでは代々会話をできます。 そしてそのセリフがまたおもしろいのです。 ただ経験値をかせぐためにやられにくるものとは一線を画します。 こういう作品が昔からあったことを考えると 無意味に戦闘がくり返されるRPGをいまだに作り続けている人は 怠慢であると言わざるを得ません。
噂が現実になる、ということをルールに反映させたのはおもしろい試みでしょう。 たとえばそのへんで「ラーメンしらいしでは武器を売っているらしい」 という噂をしいれ、それをなんらかの手段で広げると、 そのうちラーメンしらいしでは武器を売るようになるのです。 他にも、「あの悪魔はXXという魔法を使うらしい」とか 「XXに伝説の武器があるらしい」といういうような噂もあり、 そこそこバラエティーに富んでいます。 ゲームが進むと作業になってしまうことは否めませんが、 それにしても世界観がルールに反映されているというのは優れたことです。
なお、戦闘システムについては前作からかなりの単純化がはかられています。 戦闘が二次元マップ的に表示されるにもかかわらず、 攻撃範囲の概念がほぼ失われてしまいました。 残念といえば残念です。 一方、行動順の決定方法はより複雑になっておもしろくなっています。 このゲームにはターンというものはありません。 すばやさのに多少のランダム補正を加えたもので順番を決め、 この順にぐるぐる行動します。この際、 プレイヤーが行動の順番を遅らせることができます。 A,B,Cとならんでいる時に、AをBの後に行動するように変更できるのです。 このゲームでは合体魔法といって、とある魔法を特定の順番で使うと 特別な魔法が発動するというルールがあり、 これを意図的に発動させるのになくてはならないルールです。 行動順の変更や行動内容の設定はいつでもできるので、 頻繁にいれかえて有利に戦闘をすすめるのが勝利のカギになります。 確かにこういうシステムを導入して、さらに射程のルールまであると 複雑すぎるかもしれません。
で、今回の売りであるその合体魔法ですが、中盤以降はまるで役に立ちません。 序盤はそれでないとまともにダメージがあたらなかったりするのですが、 中盤以降はそうでもなくなってくるからです。 たいがいの場合、2つの独立した魔法のダメージの合計が 合体魔法のダメージを上まわることになります。 2人ならまだしも、3人、あるいは5人の合体魔法ともなると コストパフォーマンスの悪さはとんでもなくなります。 しかし、合体魔法を使うことで成長するパラメータもあり、 使わざるを得ないのが実状です。 せめて個々の魔法の合計よりも大きなダメージがあたるなり、 追加効果が強力になるなりしないと割に合いません。 また、行動を防御に設定しておくと、実際に防御という行動をしなくてもダメージが 軽減されるため、ボス戦ではどうしても行動順がまわってくる直前のキャラ以外は 防御にしてしまいがちです。そうすると合体魔法を発動させようがありません。 防御の効果が相当大きく、これなしでボス戦を戦うことなど到底考えられないため、 結局ボス戦ではまるで頼りにならないことになるのです。 明らかに調整ミスでしょう。あるいは防御のことはバグなのかもしれません。 しかしそれがバグだとして、もしそれができなかったならば とてつもない難易度になります。 私も気づくまでは地獄でした。
また、ペルソナ(装備のようなもの。これで防御力、 攻撃力、属性、魔法などが決まり極めて重要) は発動するほど使えるようになってゆくのですが、 まともに使えるようになるまでに数十回は発動させねばなりません。 そのため、もっと強力なペルソナをつけざるを得ない局面になっても そうそうペルソナをつけかえるわけにはいかないということになります。 もう少しそこそこ使えるようになるまでの時間が短くないと、 多種のペルソナをつけかえて楽しむことはできないでしょう。 またペルソナの種類が少ないのもつけかえをしにくい原因になっています。
その他バランスや調整の甘いところはかなり多く、 難易度はかなりのものです。戦略を十分に練っていかないと すぐに全滅してしまうでしょう。
なお、前作で遅い遅いといわれていたペルソナの発動グラフィック表示は かなり速くなっています。全般に待ち時間が減っているので、 さほどのストレスもなくプレイできるでしょう。
塗りは極めてきれいです。キャラは金子氏ではなく副島氏が描いているため、 女の子もかわいいです。 どこをみてもかっこよく、アラは見えません。 加えてムービーもかっこよく、演出的にもかなりの出来です。
曲はかなりかっこいいです。 ただ、前作ほどではない気もしますし、もっというなら 真・女神転生ほどではありません。 しかしながら雰囲気によく合っていて、かつかっこいいという最高の部類に入ります。
また、今回はかなりの有名声優を起用しており、 どこかで聞いたような声がそこかしこで聞けます。 しかし、えんえんとしゃべる続けることはなく、 きめぜりふだけしゃべるのは前作と同じです。 フルボイスが流行る今日このごろですが、 ズラズラ全部しゃべるよりもこの方がずっとかっこよくて 印象に残ると思うのは私だけでしょうか。 もっともギャルゲーの類いはフルボイスにこそ意味がある のかもしれませんが。
ものすごくおもしろかったです。 ただ、私はかなりキャラにはまっているところが大きいので、 ひょっとしたらあてにならないかもしれません。 私ですら戦闘のバランスの悪さや合体魔法の使えなさに 「そんなのありか」と叫ぶことが何度もありましたが、 ストーリーの先をみたくて、そして何よりもキャラのせりふが読みたくて なんとか進んでいったのです。 キャラかストーリーにはまれなかった場合は辛いものがあるかもしれません。 なお、そういうことなので攻略本は必須でしょう。 辛いのが好きで時間がある人のみ攻略本なしのプレイをおすすめします。