「終末のすごし方」感想

前々から地味に評価が高かったこの作品。 やっと借りることができたので、感想を書いてみます。 女性キャラが全員メガネということからメガネっ娘ゲーとして 扱われているようですが、それが不当な評価ではないかというのが 正直な気持ちです。 地味ながらも確かな存在感と雰囲気を持った良いゲームだと 私は思います。

ストーリー

週末には世界が終わる。これが全ての大前提です。 週末と終末をかけたこのコンセプトですが、 全ての人に平等に訪れるであろう死の前で人がいかに今を生きるか、 という主題はとても印象的です。 ほとんどの人が自暴自棄になったり、地方に疎開していく中で、 ごく少数の孤独な人々が いつもと変わらない風景を求めて学校に通ってきます。 そして、活気という言葉から程遠い気だるい雰囲気のなかで、 ただ終末までの1週間をすごすのです。 現実感のまるでないままに迫ってくる死を ただ淡々と、しかし避けがたい恐怖にふるえながら迎える。 そんな矛盾に満ちた人物の心理がこの雰囲気を形作っているのでしょうか。

また、どう終末がくるのか、とか、 なぜ来るのかなどは全く語られません。 多少電気が止まるだの、暴動が起きるだのといった情報はありますが、 シーンとしてそれが描かれるわけではありません。 あくまで情報にすぎません。 ラストも、その終末の日になったところで終わりです。 それ故の奇妙な現実感のなさが 絶妙な気だるさを演出しているのです。 この雰囲気がこの作品の最大の売りでしょう。 そして、前面にただよう希薄さの中に見え隠れする 生々しい人間らしさがまた、印象的なのです。 おそらく、終末がくるかどうかとか、そんなことはどうでもいいのでしょう。 人がいかに自分の生き方を決めるか、それを描きたかったに違いないと 私は思います。

また、特徴として非常に短いことが挙げられます。 1時間以内に終わるでしょう。分岐も少ないため、 2時間あればほぼ全てのシナリオを読むことができます。 キャラごとのエピソードも短く、 普通ならボリューム不足と言われかねないところです。 しかし、それにもかかわらず物足りなさを感じません。 キャラクターのエピソードにせよ、 個々のシーンにせよ、全く必要十分です。 私の好みのバランスだっただけということかもしれませんが、 それにしてもこれだけ短かくても世界や人間を語ることができるのだということは 衝撃でした。

また、女性キャラは六人いるのですが、男も3人います。 選択肢の選び方次第では3組できるわけです。 主人公がくっつけるのは4人のうち一人、 あとの2人は固定でそれぞれ男が決まっています。 こういう設定は「主人公は神」というギャルゲー的なお約束を粉砕する なかなか野心的なものに感じられて素敵です。

なお、主人公がつっくける4人のうち2人はかなりいいシナリオなのですが、 残りの2人はちと寒いです。ラインナップを 揃えるために導入されたような感がぬぐえません。 たぶんその印象は間違ってはいないのでしょう。

文章

体言止めの多い、脚本のような文章です。 また、普通と違って主人公の一人称でなく地の文なので、 とても乾いた、つき離した感じがします。 気だるい雰囲気はこの文体によるところが大きいでしょう。 短かくそっけない表現ながら妙に印象に残ります。

人物

全員メガネです。女性はまだしも、男も3人中2人までメガネなのです。 これをもってメガネゲーと言われるのですが、 それはこの作品の本質ではありません。 たぶん製作者側のある種冗談めいた動機でメガネキャラにしているだけでしょう。 見る側が、「メガネ属性」などとはやしたてるのは問題だと思います。

そういうわけで、メガネはまるで属性として使われていません。 属性的な作りに終始しているキャラは少数で、 6人中4人まではかなりの存在感をもって描かれています。 苦しみ、悩む人間である様子が生々しいのです。 キャラが立っている、とは言わないかもしれませんが、 少くとも実在感があります。 とりあえず、「〜〜萌え〜」とかいうゲームではありません。

淡い彩色と、妙に乾いた絵柄が、このシナリオの気だるい雰囲気を一層 ひきたてています。 売れた原因はこの絵であることは疑いありません。 時間がなくて水彩塗りになったという話も聞きますが、 そうだとしても結果よければ全て良しです。 ちなみに、この絵はかわいいです。私はそう思います。 ついでに男キャラの一人である多弘は ちとかわいすぎる気がしてどうにも気になります。

ところで、そういうシーンでも絶対にメガネをとらないのは 何かのこだわりなのでしょうか。 それとも半ばネタなのでしょうか。

ルール

選択肢付き小説です。 スキップがないのが痛いですが、 それ以外は極めてまともです。 シナリオ回想も使いにくいながらありますし、 速度もまあまともです。 場面転換のときに画面効果に凝っていたりと 細いところも気がきいています。 セーブデータに場面の名前が付くのもいい気配りでしょう。 というわけで、大した不満はありません。

音楽

気だるさを引きたてる、 いい感じに存在感のない音楽です。 音楽単体でどうかというのはわかりませんが、 雰囲気に合っていて、ゲームを面白くすることに一役買っているのですから それで十分でしょう。

全体として

いいゲームです。 確固たる存在感があります。 アクは強くはありませんが、 アクの強さは評価の全てではないということです。 同人誌を描きたくなるくらい気にいりました。 ちょっとこの作品じゃ描けませんけどね。

もどる