1が出来のわりに妙に気になるゲームだったこともあって、 借りてみました。そして、 なぜそんなに気になるのかをついに明確に知ることができたのです。
料理屋で働く主人公が、なぜか女子寮の管理人として働くことになるという どこかのらぶひなとしか思えない設定です。 当然住人と仲良くなっていくストーリーなわけですが、 第一の特徴は設定が無茶なこと。 設定がムチャであるがゆえに、ストーリーもムチャ。 退魔師が出てくればオカルト、 超能力者が出てくればSF。 もう見事にごった煮です。これでそのムチャ要素がよくできているならいいのですが、 これがまた出来がいいとは到底言えません。 しかし、私はそれでも許します。 出来の悪さがほほえましさに変換されてしまうくらいの長所がこれにはあるのです。 詳しくは後で述べますが、考えてもみてください。これはギャルゲーです。 女の子が描けていればいいのです。 キャラの魅力が十二分ににじみでていればいいのです。 そう思うと陳腐なネタもバラエティーあふれるシナリオに見えてくるから不思議です。
第二にはほめるところを書きましょう。 それは、1同様Hがゴールではないというところです。 仲良くなってH、それからさらにいろいろあってもっと仲良くなるという展開は、 Hなんてものは最終到達地じゃなくて過程にすぎないという大人っぽくてリアルな 恋愛観の現れでしょう。 1はそれにしたってHシーンの回数が多くてしつこかったので あまり評価してはいませんでしたが、 この思想そのものは好きです。2は長さも頻度もいい感じなバランスで、 加えてHシーンそのものもキャラ描写の一部として立派に役割をはたしています。 もうHシーンがいらないなんて言いません。エロ以外の理由で Hシーンが必要な希有な作品なのです。 確かに一回目のHシーンが展開として(時間的にじゃなくて) 早すぎるということは否定しませんけど。 加えて、性行為を子供をつくるためのものととらえている視点が見られるのは エロゲーとしては新鮮でした。
第三にもほめるところを。 それはストーリーの筋そのものはともかくとして、 キャラの心情や成長と関連づけて考えてみると けっこうストーリーも出来がいいということです。 事件を通して主人公を含めたキャラ達は葛藤し、自分に気づき、周りの人々に気付き、 そして成長していきます。「ああ、くっついてよかったね」的即席 ハッピーエンドではないのです。こういうのは本当に大好きです。
でも第四はけなすところ。 展開がヘタだということです。 プロローグが終わって後半年以上の期間、いうならば日常しかありません。 イベントが幸せだと言っても、何も起こらなすぎです。 後半になってくるといろいろと起きるようにはなりますが、 とってつけたようにいきなり起こります。 伏線って何?って感じです。 加えてキャラの顔見せのヘタなことヘタなこと。 数分で全キャラを出そうとして、見事に一人一人の印象が薄くなっています。 私も最初の数分は辛くてたまりませんでした。 1をやっていた私でさえ「これ、本当におもしろいの?」っと思ったほどです。 この部分に関しては1以下でしょう。売る気があるならここは改めねばなりません。 とにかくこういうことは「センス」よりも「知識・技術」に属することですので、 誰かあらすじを別の人が書いてついでに監修なんかしてくれたら いい感じに修正されるのではないか、なんて思ったりもします。
なかなか多彩なラインナップですが、設定が…。とりあえず表にしてみましょうか。
こんなところ。To Heart同様の超常系ギャルゲーとして考えれば 普通かもしれませんが、ちとやりすぎに思えるのは気のせいでしょうか。
しかし、そんなことはいいのです。 設定がムチャでストーリーも超常現象のごった煮のような状態ですが、 それがキャラの人格を描くのに足枷になっているかと言われれば否です。 設定を活かしているとまでは言いませんが、 マイナスになっていなければ万歳ではありませんか。 その肝心のキャラ描写がもう文句のつけようがないくらい 見事で、幸せで、なにか存在感があって、もうたまりません。 日常のちょっとしたやりとりを重ねているうちにキャラが頭の中に住みついてきます。 加えて、たいがいの作品では一人づつしか出てこないシーンが大半である一方、 このゲームでは複数のキャラがいっしょに出てくるシーンがごまんとあります。 キャラどうしの関係がこれ以上ないくらい見事に描かれているので、 キャラ一人一人にとどまらず、この寮の住人達という全体のイメージまでが 頭に出来あがってくるのです。 また、そういった他愛のないやりとりのふしぶしで それぞれのキャラの思想がさりげなく表現されていたりするのも キャラの実在感を感じさせるのに一役買っています。 1がいささか無茶にギャルゲー にしすぎていたのと比べればかなりの進化であると言えるでしょう。 キャラの役割分担もうまくいっており、 かぶっていると感じるところもありませんから、キャラのバランスも とれていると思います。 確かに一部のキャラにはあざといと言えないこともないでしょうが(妹、ガキ属性等)、 平均的なものに比べればないも同然です。このくらい「エロシーンが必要」 というのと同じくらいのお約束として許してあげたっていいじゃないですか。
また、1同様に主人公の人格がしっかりしているのも特徴です。 非常にいい奴で、小市民で、それでいて頼りになります。 ちょっと抜けてるところや、以外と生臭いところも好感がもてて、 魅力的な奴です。告白した後の「おめでとう!おめでとう、俺!」 などというセリフは聞いているこっちがはずかしくなります。 ちなみにこいつは191センチの巨漢で主役としてはめずらしいタイプかもしれません。
決められたポイントで誰に会うかを選ぶのと、 節々にでてくる選択肢。これだけです。 To Heart形式のシンプルなギャルゲーだと言えるでしょう。 難易度もまあ普通でしょうが、長いために どこで失敗したから先へいかないのかがわかりにくくなっています。 時間を無駄にしたくないなら攻略を見てしまっても許されるでしょう。 どちらかいって、主人公になりきってやるタイプというよりは、 主人公を含めたキャラ達を超越的な視点から見て楽しむ (めぞん一刻を読む心理か)楽しみ方なので、まあそれもよしかと私は思います。
ところで、プログラムはかなりひどい部類に入ります。 処理は異常に遅いですし、バグはけっこう出ますし(生首になったりとか)、 なにかと不親切です。メッセージスキップが異様に遅かったり、 読み返しが1ページ限定だったりとアラが目立ちます。 しかし、セーブデータに日付や場面の名前がつくなどの配慮も見え、 まあできないほど不快なわけではありません。 結局のところ一番気になるのはスキップの速度でしょうか。
加えて、どう考えても破棄すべきだったはずのゴミが残っています。 それはランダムにキャラがなにやら主人公に頼んでくるというイベントです。 シナリオ的にも急にゲーム臭くなって不自然ですし、 誰が依頼してくるかも成功失敗もランダムで決まっているようなので プレイヤはどうにもできません。ゴミはちゃんと捨てましょう。
絵柄そのものは普通です。 なにか描きなれていないのではないかという気がしますが、 それはおそらく本人が描いていないからでしょう。 まあ、普通といったところでしょうか。
曲がMIDIで入っています。ハードウェアのショボさがダイレクトにきますので、 注意すべきでしょう。しかしながら、曲は普通といえば普通です。 困ることもないですが、おもしろさを増幅するほどでもありません。
また、歌が入っているのですが、これが強烈に下手です。 注意しましょう。
声についてですが、ズバ抜けてうまい人もいないし、ズバ抜けて 下手な人もいない気がします。普通に活躍している声優と思われる声も ちらほら聞かれましたが、裏の仕事(Hシーンがあるので) だけに名前が出ておらず確認する術はありません。 ちなみに、猫耳ガキの声は妙に頭にこびりつきました。 なぜ?
幸せです。ただキャラの会話を聞いてるだけで幸せです。 幸せな日常がもうたまりません。それでいて、キャラの考え方や成長を描くという 意味で言えばストーリーもよく出来ています。 陳腐なネタと下手くそな展開が残念ではありますが、 そんなことは無視、無視です。 この異常なまでの平和さと幸せさ、そしてキャラのいい奴さ、実在感を表現した このシナリオライターはタダものではありません。 3も出るとのことですが、ムチャなシナリオに頼らずに 得意とする恥ずかしい日常描写で勝負してくれると、私などはコロっと ハマってしまいそうで恐いです。2は1よりも直球勝負っぽさが強くなっていたので、 3はもっと…と期待していいでしょうか。
なお、ここまで読まれればわかるとは思いますが、 ストーリーの精妙さとか、そういうものをこそ評価される人には絶対勧めません。 私は所詮キャラ萌えの男ですが、これのストーリーは それでも辛いほどの出来の悪さなのです。