「とらいあんぐるハート3」感想(Ver.2)

幸せの代名詞たるとらハ。その最終形態がこの3です。 以下の文章は私がこのシリーズが大好きなのだということを 前提に置いてお読みください。

ストーリー

何を言おうか非常に迷いますが、とりあえず設定を説明しましょうか。 まず主人公は暗殺剣を継承する家系に生まれ、その道の達人です。 しかし怪我によって自分が道を極められないという思いもあって 妹を訓練して最強の剣士に仕立てています。 で、それとは関係なく主人公の家庭にはいろんな事情でたくさんの居候が住みついて おり、やけになごんだ生活を送っているわけです。

何がなんだかわかりませんね。でも、なんというか、 これ以上何をどう言っていいかわかりません。許してください。

で、お話そのものはキャラによってまるで違うので ここでそれを説明するわけにもいかないのですが、 主人公は武人なので基本的には全ての話に闘いが行われます。 何かを守るために闘うのです。しかしシナリオによっては 主人公の武人っぷりがカスのように見えてしまうくらい超常 なシナリオになるので、あんまり活躍しなかったりもします。 やっぱり今回も超常シナリオで満ち満ちており、 ああとらハ、と言った感じでしょう。 超能力だろうと超絶科学だろうとオカルトだろうとなんでもござれです。

なお、「Hは最終地点ではない」というとらハの伝統は今回もちゃんと生きています。 仲良くなってそういう関係になるのは中盤で、お話の本筋はその後か、 あるいはそれと並行して別に起こるのです。 ヒロインが何かをのり超えていく過程を主人公が手助けし、 その末に二人の間に強い絆が生まれてお話は幕を閉じるわけで、 あまり恋愛そのものがテーマには見えないかもしれません。

キャラクタ

まずはキャラクターのラインナップを説明するのが一番良いでしょう。 しかし、当然ネタバレは避けたいところですので この説明ではよくわからないキャラもたくさんいます。

メインキャラ武術率が43%と高いのはとらハの伝統ですが、 メインキャラ以外の比較的重要なキャラも含めると 武術率はもっと高くなります。主人公が武術なだけに当然といえば当然ですが、 この武術率はギャルゲー界屈指のものと言えるでしょう。

ところで、武術なのはいいとして、今回もやっぱりいい奴まみれです。 みんないろいろ考えていて、単なる無邪気キャラは一人たりともいません。 とにかくみんながんばって生きています。 ストーリーや設定はちとガッカリなくらいダサい超常現象 物で到底出来がいいとは言えないのですが、 キャラクターの人格は見事なまでに描かれているので それだけでもう十分です。 シナリオ分岐後もそのキャラだけしか出てこないという状態にはならず、 ちゃんと他のキャラも顔を出してくれます。 いわゆる、「開始後に出逢ってラブラブへ」というタイプだと 他のキャラとは大して仲良くならないので当然ですが、 このゲームでは事実上全員友達もしくは家族状態からスタートしますので、 他の連中が出てこなくなるなんてことは絶対にないのです。 おそらくこのことがとらハの雰囲気を形作る上でとても大切な要素になっているのだ と思います。

展開とかネタとか

やっぱりがっかりです。今までのとらハ同様、展開のテンポとか、 メリハリといったものがまるでありません。一応プロローグ、第一部、 第二部、第三部と分けてあって次第にキャラが絞りこまれてゆくことに なってはいますが、やっていてそういう切れ目はまるで感じられず、 中盤くらいまではプロローグのまんまのような気がしてしまいます。 1のように「楽しく話をした」みたいなショボいことはないので はるかにマシですが、どうにもお話が唐突に展開しすぎるのです。 そしてその展開するお話はあらすじ的にはすでに述べた通りガッカリな内容ですし ラストでひねりがあるわけでもありません。 ストーリーを楽しむものとしては落第もいいところだと言えるでしょう。 80年代に乱造されたオカルト漫画やSF漫画レベルのネタが えんえんと展開されるわけで、いくらキャラが魅力的だと言っても 辛いことは辛いのです。

また、2ではほとんどナリを潜めていたエロシーン的エロシーンが 復活してしまいました。中学一年生や二年生でもそれですし、 何かとあざとい展開になりがちです。 どうやらエロゲーというジャンルであることを思い出してしまったようで、 私としては残念でした。別にエロシーン的エロシーンを否定するわけでは ありませんが、キャラ描写の一環としてのエロシーンという 面が大部弱まってしまうのはやはりとらハとしては残念と言えるでしょう。 とにかくそうなるのが早すぎますし、それの内容も自然とは到底言えません。

キャラデザは前作までと同様に都築真紀氏ですが、 原画は全て違う人になりました。そのために けっこう顔が変わっています。 2までは妙にぎこちなかったので、たぶん原画の人の方がうまいんでしょうが、 そのあたりは好みの問題と言えるでしょう。 なお、キャラデザの段階でまるで描き分けがないため、 みんな同じ顔です。3だけならいいですが、1、2とクロスオーバーしている この世界においてもし全部のキャラが集合したら結構大変なことになりそうです。 そんなことはしていないからいいのでしょうし、服と髪の色で わかりそうではあるのですが。

また、画面効果はけっこう凝ってます。必殺技の名前がバンと画面に出たり、 太刀筋や火花の画面効果があったりとなかなかいい感じです。 それらがやっぱり話同様に妙にダサい という弱点があるのは事実なのですが、完成度が高いのは良いことです。

効果音がちゃんと相当数入れられています。ちゃんとスタッフロールにも 効果音の人が入っていたほどで、心意気が感じられます。 ただ、音そのものはけっこうよくあるタイプの音なので、 戦闘シーンの音などはちょっとダサいかなと思わないでもありません。

なお、曲は今一つ印象が薄いです。2までと違ってちゃんと音楽を専門にやっている 人達に頼み、midまんまとかいうこともなくなったので非常に完成度は高いのですが、 なにかどうも頭にこびりつきません。確かに前まではたまに変な和音が鳴ったり していてとても売り物とは呼べない代物だったのですが、 今回は今回でどこかにありそうな曲が多すぎます。

さて声ですが、どうでしょう。とりあえず目を覆わんばかりに演技が下手という人が あまりいないのは事実ですが、だからといって果たしてうまいのか どうかはよくわかりません。 なんというか、「ああこういう声のキャラなんだ」と一撃で納得していたので まるで批判的にならなかったのです。しかしまあ冷静に考えてみれば あまりうまい人はいなかったような気もします。 しかしそれよりも、どうしても残念なことと、 残念だけれども仕方がなかったことがそれぞれ一つづつあって、 それが本当に残念でならないのです。

前者は中国ハーフ料理拳法娘の声です。彼女は関西弁なのですが、この関西弁が ものの見事に謎な言語になっています。言うならば関西弁チャンポンです。 関西弁がメチャクチャに混ざっている上に、演技がうまくないのか 異様に不自然で、さすがに聞くのが辛い状態になっています。 私などは「中国だしいいか」と意味不明な納得のしかたをしていますが、 順当に考えれば幼いころから日本にいるわけでそういうチャンポンになる 可能性はありません。神戸の中華街あたりの出身と考えるのが妥当でしょう。 それに怒るととんでもなくドスの効いた声になってしまい、 ただでも中身が大人びすぎているのにこれで中一はちょっとないだろう という状態になります。 そう考えるとやはりこれは出来が悪いと言わざるを得ません。

後者の残念だけど仕方ないことというのは、歌のことです。 世界的歌手という設定のキャラがいるのですが、この人の歌が当然のことながら うまくありません。いや、世界的にうまい必要はないし無理なので せめて「うまい」範疇に入っていればいいのですが、 残念ながらこれでは到底うまいとは言えないでしょう。 曲の作りもまた同様にがっかりです。 さらによせばいいのにクライマックスで歌を歌い、かつこれをスキップできず 聞かねばならないという非常に痛い演出が用意されています。 芸術を扱う漫画やアニメが常に直面する課題ではありますが、 もう少しうまく目立たないようにすべきではなかったでしょうか。

プログラム面

2までとは別世界に良くできたプログラムです。 スキップ、読み返し、自動再生、選択肢ごとの自動セーブ、 画面効果、音のきれいな再生、バグ率、クイックセーブ機能、 右クリックの機能カスタマイズ。どれをとってもギャルゲー としてはトップレベルに便利に作られています。 1のようにキャラがいる場所を示すマークにキャラの顔が入っていないので いちいちそこまでポインタをもっていかないと誰がいるかわからない という弱点はありますが、それまでの不便を考えれば些細なことでしょう。 やっと売り物になったという気がします。

ただ、エンディングが何回目でも飛ばないのがかなりかったるいです。 確かに毎回出てくる絵は違いますし、スタッフロールもキャストの あたりが違うので飛ばしてほしくないのもわかりますが、 それならもう少し短くすべきだと思います。 歌二番+ラララリフレインを全部やってしまうのは さすがに長すぎるでしょう。なお、この途中でタイトル画面に戻してしまうと エンディングを見たことになりません。

また、ムービーの画質がやっぱりショボいです。 2の時も「なんだこのコマ落ちしたようなフレームレートは」と がっかりしたものですが、今回もかなりのものでした。 加えてjpg、mpgに特有の圧縮ノイズがバリバリに出ています。 WEBで流すんじゃないんだから容量をこんなに減らさず画質を重視しても いいだろうと思いますが、おそらくはそのへんのことがまるでわからない人が 作ったのでしょう。本体のプログラムがまともなのにこういうところがダメなのは 謎ですが、プログラムは外から供給という寒い可能性もあるので なんとも言えません。

1、2との比較

1はとがったゲームでした。全体に完成度がとてつもなく低く、 中途半端にエロゲーで、シナリオもションボリなのだけれども たまにものすごく光る表現や、目を覆わんばかりのラブラブ描写が 心を釘づけにしたものです。 そして2は完成度こそほとんど変わらなかったものの 無用なエロ要素を減らし、幸せな日常描写とキャラの人間性の 描写がこれでもかというまでに完成されていました。 お話も1ほどあからさまにションボリではなく、 ダサいながらもよくできたいい話にまとまっていたのです。 特にラブラブになるに至る二人の心理描写の自然さには 目を奪われました。

さて、3はどうかと言うと、前作までであまりにションボリだった ゲームとしての、あるいは売りものとしての完成度が 一気に標準レベル以上にまでアップし、非常にやりやすいゲームになりました。 しかし、それによって手放しで絶賛できるものになったわけではありません。 超常現象やヒロイック戦闘要素が全面に出すぎたために ストーリーのダサさが1並みになってしまいました。 加えて2ほどの幸せ描写の破壊力はなくなり、 キャラの心を語るのに雰囲気をもってでなく直接的なセリフを用いる部分が 多くなってしまいました。さらに、ラブラブになっていく過程とラブラブさが 増していく過程がたまらなく良かった2の特徴が見事に失われ、 あっというまにそれシーンになり、なった後はいきなり本筋で そのままエンディングというわびもさびもないものになってしまいました。 すなわち、2をやった時に解消された1の不満点が見事に帰ってきてしまったのです。 そのわりに1ほど光る表現もありません。言うならば大人しく、 そして小さくまとまってしまったという感じでしょうか。

なぜこうなったかはだいたい想像できます。 まず完成度を上げろというのは中からも外からも聞こえてきた声でしょう。 そして、エロくないぞという抗議の声もいくらかはあったでしょう。 エロくないのがいいんだという人もたくさんいるものと信じますが、 そういう人は感想を送ったりはしないし、得てして批判的な意見の方が 重く受けとめられるものですから無理もありません。 そして2の春から秋にかけての何もない日常がかったるいという意見も また多かったのでしょう。あの熟成期間がいいのだと私などは思いますが、 バグが残った上に本当に何も起こらないあの期間はやはり売り物としては 落第です。そう考えれば中だるみを防ぐためにさっさとラブラブにしてしまって 本筋に入ろうと思うのもうなづける話だと思います。 音楽も、絵もまた然りです。 そういうわけで、3がこうなることは必然だったのかもしれません。

しかし、3とてそう悪いわけではありません。むしろけっこういいのです。 キャラ達は一時的にエロゲーキャラになることはあれ、 基本的にはちゃんとした人格をもったいい奴等ですし、 キャラが事実上みんな家族で、誰とくっついてもみんながそこそこ祝福してくれる というのは非常に好感がもてます。中には内に悔しさを秘めている子もいる かもしれませんが、彼女らはそれを「ほとんど」表には出さないのです。 この「ほとんど」というのは私が勝手にそう思うだけで 作者は「ぜんぜん」思ってないように描いたのかもしれませんが、 そう思いこめてしまうゲームはそうは多くありません。 必殺技がバンバン出る戦闘もショボいにはショボいですが、 普段地味に語られる武術に対する考え方には私がやっているものと 何か共通するものも感じられたりしておもしろいです。 2の後に期待してしまったほど期待した部分が 良くならなかっただけ、というのが冷静な分析でしょうか。

全体として

「いい奴観賞ゲー」として私内部で不動の地位を築いたとらハシリーズに 大きな敬意を表したいです。いくら私の期待するところが多少満たされなかった とは言え、冷静に見ればちゃんと進歩していましたし、 十分おもしろかったのですから。充分に幸せ気分を堪能できましたし、 充分にいろいろと考えさせてくれました。

なお、最後に一つ言いますが、おそらく多くの人はこのシリーズ には合いません。 減点法で評価が決まるタイプの人、ダサイものが我慢できない人、 エロくないエロゲーに興味がない人、陳腐が大嫌いな人。 そういった人には到底勧められません。 正直に言いましょう。そういう方はとらハ123はやらないでください。 わがままながら、これが私の気持ちです。


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